大事にされたいのは君

君が内側に入り込む



それからは、静かな時間がゆっくりと過ぎていった。まるで今までを思い返して答え合わせをしていたような、滞っていた想いを吐き出した充実感に浸っていたような、これから先を思い描いて新たな一歩に胸高鳴らせていたような、無音だけれどそんな沢山の想いで充実していた時間が私達の間に流れていく。

私を求めてくれた事が、どれだけ私の心を救ってくれたのかを瀬良君は知らない。それがどれだけ私の心を攫っていった事か。私の中にはもう、瀬良君に伏せておきたい事など一つも無かった。瀬良君に心のうちを晒す事、私の弱く、醜く、情けない部分を見せる事にもう躊躇いは無かった。

「…今日ね、兄の会社の人…に、会ったんだ」

私の虚栄は見事に剥がれ落ち、彼に頼ろうと縋る私が口を開いた。彼に出会えた幸せに浸る中、燻る影は消える事なく大きくなっていくのをずっと感じていて、ついに見ない振りが出来なくなったせいである。彼女の口から存在を知らされた二人分の犠牲が、ずっとこちらを見ているのだ。ずっと、ずっと、私が幸せに感じる分だけ、ずっと。

「…お兄ちゃんね、本当は彼女と同棲する事になってたんだって。結婚する予定もあったらしいんだけど、私と暮らす事になって全部ダメになったんだって」

その視線が息苦しくて、吐き出したい想いが、呼吸が、ピッタリと合わない。何をどう説明すれば今抱いている気持ちが上手く伝わるのかはさっぱり分からないけれど、しかしもう、彼に取り繕う必要は無かった。彼は私を受け入れてくれる、今の私が唯一信じられる存在だった。だから格好を気にする言葉なんて必要なく、ただただ私の思いつくままに兎に角それを口から吐き出した。

「もう、どうしようもなくて。そんな事も知らないでのうのうと生きてきた自分を消し去りたいし、最近なんてお兄ちゃんに頼りたいとまで思い始めてて、どこまで迷惑掛ければ気が済むのかも分からないくらいな状態で」

「……」

「お兄ちゃんの犠牲があって私の幸せがあったのに、私なんて迷惑でしか無いのに、そんな事も忘れてた自分が恥ずかしくて…兄の力になるなんておこがましいにも程がある。居なくなるのが一番手っ取り早いのに、それなのに私はどこにも行けなくて、居ていい場所も頼れる人も…」
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