大事にされたいのは君

「じゃあ向こうもそうなんじゃない?」

すると彼は、諭すような口調でそんな事を言った。どういう事かと、私は訝しげに彼に目をやると、彼はなんて事ないような顔で告げた。

「二人しか居ないんだから、お互いに支え合うのは当然じゃん」

あっけらかんと、それこそ当たり前な事を当たり前に彼は口にして…それがハッと、私に正しい呼吸を取り戻させた。お互いに支え合うのは同じ。私と兄はたった二人の家族で、お互いを大事に思っているーーつまり、兄も私と同じ気持ちでいる、という事。

私達は互いに互いを想い、互いの為になる事をやりたくてやっている。

「いくらお兄さんだって、本当に嫌だったら断んでしょ。他の親戚の家で預かって貰うとか、吉岡さん用に別の部屋を借りるとか、寮のある他の学校に入れるとか、いくらでも方法はあんじゃん?でもそうしなかったのは、自分で吉岡さんと暮らす事に決めたからじゃないの?」

「……」

「同棲やめたのが吉岡さんとの同居のせいだったとしても、別にお兄さんはそれで良いと思って選んだんだと思うけどな。単純に彼女と吉岡さんを天秤にかけて吉岡さんが大事だったって事だろうと思うけど」

「…それは分からないけど、でも…結婚だよ?」

人生の大きな節目だよ?と、事の重大さを強調すると、やれやれといった様子で瀬良君は肩を竦めた。

「男からしたら結婚なんてそんな重大なもんじゃない…つーか確か、お兄さんって27だったよね?あ、もしかしてその話、お兄さんの元カノから聞いた?」

「そうだけど…え、なんで分かったの?」

素直に驚く私に、瀬良君は「やけに身に覚えのある気配を感じたから」なんて言うものだから、なんとなく察してしまった。今までの経験上、束縛に付随する女性のそういう面を彼は何度も見てきたのだろう。まぁ、だとしても、だ。

「でも、私のせいで別れちゃった事には変わりないよ。私が独り立ち出来るまで結婚しないって、兄が決めてたみたいだから…」

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