大事にされたいのは君
「でもそれって独り立ちしたら結婚するって事だろ?それ受け入れらんないんじゃ別れて正解。それでゴネるような奴は、お兄さんの大切なものを大切に出来ない奴って事だ。そんな奴と結婚したって上手く行く訳ないって」
「……」
確かに…なんて、納得してしまった私が居た。確かにそうだ、兄はただ同棲を、結婚を取りやめた訳ではなく、条件を提示したはずだ。それを受け入れられなかったから別れたのだと彼女も言っていた。それも全部受け入れてくれる人…もし結婚するのだとしたら、相手にそれを兄は求めているのかもしれない。私の事を一緒に見守っていってくれる人。私の事を大切にしてくれる人。兄の選んだ生き方を受け入れてくれる人。
…そこまで想ってくれていたのかな、お兄ちゃんは。
「だから、お兄さんの為を思って居なくなるなら今じゃない、お兄さんを安心させられたその時だよ。それが養って貰った吉岡さんがお兄さんの為に出来る一番の事だと思う」
「……本当だね」
「本当だ。瀬良君の言う通りだ」晴れ晴れとした気持ちで、私は彼に言った。…彼にはもう、感謝の言葉しかなかった。
「ありがとう、瀬良君。本当にありがとう」
彼に、私一人ではきっと乗り越えられなかったと伝えれば、キョトンとした後瀬良君が笑った。
「それはお互い様。俺も吉岡さんに教えて貰う事ばっかだし」
「え、そうかな…思いつかない」
「持ちつ持たれつだねって、吉岡さんを傷つけてた俺が言う事じゃないけど」
「いやそれは、もう済んだ事だし」
済んだ事…そう、もうあんな思いはしなくていいのだ。
「瀬良君と私はもう、友達じゃないしね」
ふざけたように私が言うと、瀬良君も笑った。
「いつでも頼って。帰りたくないならうちに居ればいーし、帰るんなら家まで送るし、どこかに行きたいならどこでも連れてくよ。吉岡さんは俺の特別な人だから」
彼の言葉はいつでも、簡単に私を甘やかした。だから私にはきっと、彼以外が思いつかなくなってしまったのだろう。冷たい彼知った分だけ、その愛情が尊いものだと知ってしまったから。