大事にされたいのは君

先程まで居たタワーマンションは、歩いても歩いても見えたままだ。あんなに景色の良い所で生まれ育つなんて私の人生には全く無い感覚だ。スーパーに行った事が無い所から何か違う感じはしていたけれど、まさか瀬良君がお金持ちの家の子だったとは。

「いや?一軒家の時もあったけど、大体他の家もここら辺だったから。親がここらを気に入ってるらしい」

「じゃあ引越しが多かったんだね、それも大変だね」

「んー、引越しというか…引越しなのかなぁ?」

「?」

見えてきたようで見えなくなる瀬良君のお家事情。つまりどういう事なのか、きっちり分からないまま私は怪訝な表情で首を傾げる事しか出来なかった。踏み込んで尋ねて、またあからさまなスルーをされる事を恐れた私が守りに入ったのである。知りたいけれど、傷つきたくは無い。

…なかなか返ってこない返事に、きっと教えてはくれないのだろうと諦めが入り、やっぱり違う話題をと探し始めた、それはちょうどそんな頃合いの事だった。

「…うちさ、親の都合で何個かあるんだよ」

「家が」と、続けられた言葉に、パチリと瞬きを一つ。

「その時住んでたのが親との時もあるし、ばあちゃんとの時もあるし、知らない仕事関係の人の時もあるし、それによって俺が住む家が違って…まぁ全部親の所有してるやつなんだけどさ。それがここら辺に何個かあって、全部そのまま身一つで住める用になってんだよな。俺が大体自分の事出来るようになってからは今の家に固定になったけど」

「……」

親との時もある、という言い方。家と、その家に住む人の間を転々として、今は自立したから固定になった…つまり、

「…今瀬良君は、家族と暮らしてないの?」

というか、

「もしかして、一人なの…?」

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