大事にされたいのは君
その事実は、私にとってとても衝撃的なものだった。恐る恐る尋ねるように、ひっそりとした声が私の口から感情を漏らす。信じられない。あんなに広い家に、たった一人。家に帰って、誰と話す事も無く、支え合う事も無く、淡々と生活する為の家事をこなす。そしてまた誰もいない朝が来る。そんなの、今の私には耐えられなかった。頼れる人がすぐ傍に居る事。誰かの為に頑張れる事。それは、今の私を形作る上でとても大事な要素で、これらが無ければ私はすぐにでもボロボロに崩れていってしまった事だろうと思う。それを私に教えてくれたのが、瀬良君だったというのに…いや、そんな瀬良君だからきっと、私にそれを気づかせてくれたのだ。
寂しさを知る瀬良君だから、私に気づいて、私に気づかせてくれた。彼はきっと誰よりも寂しさを知り、寂しさに慣れ、寂しさに敏感な人なのだ。
そんな私は一体、どんな顔をしていたのか…瀬良君は困ったように笑った。笑って、
「だからって別に家族仲悪い訳でもねぇし、そんな顔しないしない。月末はあの家に集まるのが決まりだしな」
なんて、まるで他人事のような呆気なさを全面に出した口調で言った。それは私の問いへの肯定でもあった。
「……」
その軽い口調の真実は。隠された想いは、事実は。こんな時、どんな言葉で返すべきなのだろう。彼の中身に触れる許可を貰えた私は今、何を思った?彼に感じたもの、それは、
「私には、瀬良君が居るよ」
ピタッと、隣の彼の足が止まった。同じように、私も足を止めて彼と向き合った。
…頼ってと言ってくれたのは瀬良君だから。私にはもう瀬良君が居るから、怖くない。だから、
「瀬良君にも、私が居る。私が居るからね」
いつでも頼って。頼って貰えたら、私も居場所をもらえるのだから。
「私達はいつも、似た者同士だね。だから、寂しさを分け合える」