大事にされたいのは君
お兄ちゃん、と声を掛けようとした所で気配でも感じ取ったのか、兄がこちらに振り返る。ピタリと動きを止めた兄は、そのまま視線だけをチラリと横にずらした後、また私へと戻した。
「おかえり。そちらさんは?」
「あ、えっと…」
何も無い顔をして、友達の瀬良君です、とでも言えばいいのだけれど、兄のこの真っ直ぐに人を見透かすような視線を前に隠し事は通じないとよく分かっていた。下手に隠して機嫌を損ねるよりも端的に事実だけを話した方が余程良い。…でも待って。私にとって瀬良君って…つまり…
「初めまして、瀬良 透です。吉岡さんにはいつもお世話になっています」
一歩前に出た瀬良君の、シャンとした声が響いた。思わず私は口を噤んで彼を見遣る。彼の真剣な表情が斜め後ろからチラリと覗いて、真面目な彼の一面が見られた事に驚きと共に嬉しさがこみ上げた。そんな彼がまた何か言葉を繋げようと口を開いたので私は黙っている事にした…のだけれど、
「お兄さんがとても吉岡さんの事を大切に思っているのは重々承知していますが、吉岡さんの一番は俺が貰います」
「は?」
「へ?」
サラリととんでもない事を言ってのけた彼に、兄妹揃って目を丸くする事となった。どうした、なんだ?どういう事だ、一体、
「何おまえ、俺と張り合ってんの?」
兄のその言葉で、空気がピンと張りつめる。ジッと瀬良君を見据える兄は眉を顰め、不愉快さを露わにしていた。
「ステージが違ぇだろ。最近の高校生ってみんなこんななの?おまえコイツの何?」
「彼氏です」
兄に臆する事無くハッキリ言い切ったその言葉に、
「は?」
「え?」
またも、兄妹揃った反応を見せる事となり、互いの顔を見合ってもう一度同じ声を漏らす事となった。