大事にされたいのは君
兎に角一刻も早く夕飯を作り上げて仲間に入ろうと、手の込んだものは避けた。人数が増えたせいとでも言えば良いだろう。そして出来上がったものを手に二人の元に戻ると、
「寂しくなったらいつでも来いよ」
なんて言う兄の言葉で、料理をしている間に育まれた二人の間の何かの存在だけを知る事となった。それはブツ切りに切った具を荒く煮ただけのカレーを作る僅かな間だったというのに、それなのにその話は終結した様子で、私の運んで来たカレーに『あ、カレーだ』の顔を二人共向ける。
「…結局坂辺 康太さんって誰なの?」
悔しくて空気を読まずに発言してみた。するとカレーを口に運ぶ兄が答える。
「俺の友達」
「それはさっき聞いた」
「瀬良の知り合い」
「そんなの分かる」
「俺んちで家政婦してた人の息子で、俺の兄的な存在」
「だからそんなのって…え?」
兄にまた適当に返されると思った返事が、違う声から返ってきた。瀬良君だ。
「どうしてるか気になってたから、知る手段が見つかってテンション上がった」
「手段っておまえな」
ハハッと楽しそうに笑う瀬良君に、やれやれと、今度はどこか弟に向けるような眼差しで彼を見る兄が小さく笑う。…なんて事だ。もともと兄は世話を焼くのが好きな人ではあるけれど、誰彼構わずのタイプではない。今日会ったばかりの、しかも私の彼氏だなんて言われた男子に、こんなにも兄が心を砕くなんて。
「そうだ、同棲やらの件。俺があいつを甘くみてたのが悪かった。こいつの言う通り、始末をつけられなかった俺が悪い。おまえが知った時どう思うかまで考え至らなかった俺が悪い。ごめんな」
「え?…あ、うん、いや、私こそ…ごめんなさい」