大事にされたいのは君
「あ、龍介さんおかえりなさーい」
「何おまえ、また来てんの?」
「もうすっかりうちの子じゃねーか」と、肩をすくめてやれやれとしながらも、どこか楽しげに兄は返事をした。
「食費光熱費諸々請求すんからな」
「ツケといて下さい。俺が独り立ちした際は二人まとめて養いますから」
「おーおーそりゃあ楽しみな事で」
いや、拒否しないんだ!と驚きながらも、一足遅れたおかえりなさいを兄に送ると、兄はただいまと頭を撫でてから着替える為に私室へと消えていった。リビングの方ではすっかりうちの子になった彼ーー瀬良君が、「さて、夕飯にするかー」なんて呟いてキッチンに向かっている。
「……」
すっかり我が家に定着した瀬良君の姿。あれから彼は、用がなければ学校からそのままうちへと顔を出すようになり、夕飯を食べてから本住まいの方へと帰るようになった。そう。ここはもう彼の仮住まいの家と言っても過言ではない。今のやりとりからも分かる通り、龍介さんだなんて下の名前で兄を呼ぶ程に瀬良君は兄に懐いており、兄もそれが満更でもないようだった。あんな冗談を笑って受け入れるぐらいに兄も瀬良君を可愛がっている。
「あれ?吉岡さーん、ケチャップどこー?」
ひょっこりキッチンから顔を出した瀬良君が私に尋ねた。今日は瀬良君お手製オムライスの日だ。先程使い切ったケチャップの在庫を探しているのだろう。
「…戸棚の一番左」
「ここか!ここがストックね」
そして仕上げの作業に戻った彼の鼻歌が聞こえてきて、私はリビングのソファへと腰を下ろした。オムライス如きに私の出る幕はない。
「……」