大事にされたいのは君
「え、龍介さん?」
「それ!きっかけはなんだったの」
「きっかけ…きっかけって言われると…やっぱ康太さんの話をするようになってからかなー。康太さんから龍介さんの事聞いた事あったから」
「それ!!康太さんって結局誰?」
ずっと知りたかったのに教えて貰うタイミングを掴めず、ついこの八つ当たりの勢いで飛び出してしまった。康太さんやら坂辺やら、男二人の間でポツリポツリと出て来るその名前。
「家政婦の坂辺さんの息子の康太さん」
それは知ってる!と、兄の時と同じ言葉を返そうとした私に気づいたのか、気づいていないのか。
「色んな人ん家を転々としてる中で、ずっとついて来て世話してくれてたのが坂辺さん。遊んでくれてたのが康太さん」
彼は私が口を開く前に教えてくれた。私の知りたかったその背景を。うっすらと微笑み、懐かしみながらページをめくるかのようにどこかうっとりとして。
「普通だったら職場に息子は連れて来れねーはずなんだけど、坂辺さんシングルマザーで困ってた所を特別に親が雇ったらしくてさ。当たり前に康太さんは俺んちに帰ってきて飯食ってた。うちは構えない息子に兄弟出来るし家変わるごとに毎回新しい人雇わなくていいしで、色々お互いの条件擦り合わせていって決まった事だったみたいなんだよな。だからほぼほぼ俺の母さんみたいな人だし、ほぼほぼ俺の兄ちゃんみたいな人だった」
「もう何年前になんだろ」と呟いて、彼は目を細める。その先に二人の姿を思い浮かべているのだろう。
「んで、康太さんが独り立ちした後坂辺さんが再婚して家政婦やめて、俺は今の家に固定になり業者任せの日々を送るようになると。で、飯だけでも自分でやってみるかーと料理の道に一歩踏み出した俺が、今の俺になるっつー事です」
そして、腰に手をやり胸を張った瀬良君が、「どう?」と私に訪ねる。