大事にされたいのは君

「お兄さんも知らないのに俺だけが知ってるなんてヤバい、かなりアガる」

「…本当、なんで言っちゃったのか分からない」

「え、吉岡さん分かんねぇの？」

当然だという表情で、彼は私にこう告げる。

「俺になら言えるって、吉岡さんの知らない吉岡さんが思ったって事だよ」

ーー“吉岡さんの知らない、吉岡さん”

「俺の事必要としてる吉岡さんがちゃんと居るんだよ。だから吉岡さんは俺をもっと大事にするべきだと思う」

「……充分大事にしてるつもりだけど」

「してないしてない、俺はまだまだ満足してない」

「……そっか…」

ちょっとちゃんと分かってる？と、やれやれと視線を逸らした私を覗き込むようにして尋ねてくる瀬良君は、なんだか楽しそうだった。満足してない、なんて言いながらも、今の表情を見る限りだいぶ満たされたように思うのだけど。

「吉岡さん」

「はい」

「俺は吉岡さんが居なかったら今の俺は居ないよ」

「…あー、さっきのやつの返事なら別に…」

「いや、聞いてよ。本当に俺、今吉岡さん中心で世界が回るくらい吉岡さんの事ばっか考えてんだよね」

「だからさ、居なくならないで」

「他にも必要としてる人居るよとか、お兄さんだって一人じゃないから頑張れたんだよとか、外から見て励ます事ももちろん出来るけど、したくないからしない」

「そんなのライバル増やすだけだし。俺が居るんじゃダメなの？吉岡さんには俺が居るし、俺は必要だよ」

「俺が困るって事だけは忘れないで」

やけに真っ直ぐ私を見つめてそんな言葉を畳み掛けるように告げる瀬良君に、私は言葉をなくした。

「…君は、そんな人だったっけ」

「じゃあきっと、吉岡さんがそうしたんだね」