大事にされたいのは君
「…私が?」
それに瀬良君は、まるで当たり前の事のように頷いた。私が必要だと、まるで私に刷り込むように繰り返される言葉の数々は、私のせいで生まれたのだと。人を惹きつけ、来るもの拒まず去る者追わず、自分は自分だからと存在感だけで示せるようなこの人が、いつの間にか私無しにはいられないとでもいうように縋り付く為の言葉を、恥ずかし気も無く易々と口にするようになった事実は私にとって衝撃的だった。
元から想いを簡単に口にするタイプの人だったけれど、今までのものとなんだか少し違う気がする。お互い大事に思っているのは確かだ。寂しさを埋め合う関係、なんて始めの頃彼は言っていたけれど、今では言う通りになったと思う。必要な所をお互いで埋め合っているのが私達。私の事を大事に思ってくれるのは嬉しいし、私も彼の為になれるのが嬉しい。居なくなりたい、その本音にこんなにも言葉を返してくれるのも、私に執着を見せてくれるのも、全部が私には奇跡のようなものだった。
彼は私にとって必要な人。そんな彼が、私を一番大事だと言動で表してくれている。それはとても嬉しくて有難い事…なのだけれど、
「君はそれで良かったの?」
思わず口をついたのはそんな問いだった。これで良かったのかと、もし私のせいならこうしてしまって良かったのかと不安になった。
「私なんかが君を変えてしまったのだとしたら嫌だ。君は君のままで居て欲しいと思う」
いつも輝いていた彼の輝きを私が奪ってしまう気がした。間違っているのではないか、なんて。彼は彼のままで居て欲しい。皆に愛されるそのままの彼で。
しかし彼は私の想いを知ってか知らずか、迷い無く私に告げる。
「これが元々の俺だよ。吉岡さんが見つけてくれた俺。吉岡さんが見つけたせいで出てきた俺。吉岡さんは分かってくれてると思ってたんだけど」