大事にされたいのは君
「嫌?」と、不安気に、それでも笑顔を浮かべて彼は首を傾げた。受け入れられたい、拒絶されたくない、そんな気持ちが潜んでいる事は勿論私には分かっている。その笑顔が強がりだって事も。
「嫌な訳では…ただ、不安になっただけで」
「何に?」
「私が君を変えてしまったとして、そのせいで君が一人になってしまわないかなって」
「…は?」
すると彼は何を言ってるのだと、理解出来ないという気持ちがありありと書かれた顔で私に言った。
「一人にはならないよ、だって吉岡さんが居んじゃん」
一片の迷いもみられずに告げられたその言葉。それに私は答える事が出来ず、当然と言わんばかりの表情でこちらを見つめる彼の顔を、ジッと見つめたまま時間だけが過ぎていった。
もし、だ。もし彼の言うように彼の周りに残った人間が私だけになってしまった時が来たとして、それは彼を一人にしてしまった事と同じ意味を持つのではないだろうか。私にはそれだけの価値も意味も無いのに、瀬良君は私に関わってしまったせいで間違った選択をしようとしているのでは無いだろうか。嬉しい言葉を貰ったはずなのに、そんな不安で胸が一杯になり、感動よりも後悔ばかりが私を責め立てた。
「透、おまえそろそろ行かないとあいつキレてる」
ガラッと急に開いた教室の扉から入って来た人物によって、漂う不穏な空気の流れはピタリと止まった。瀬良君と同時に目をやる先の彼は、気怠そうに扉に寄りかかってこちらを見ていた。
「なんで?俺断ったじゃん」
「ドタキャンで納得いってない本人に言え。俺は付き合わされて迷惑してる」
「なんで祐樹が付き合ってんだよ、放っときゃいいのに」
「付き纏われてんだよ。おまえの管理が悪いせいだ、俺はやめとけって言ったのに」