大事にされたいのは君
「とりあえず早く片付けて来い」そう言って入り口に佇む彼は顎で廊下を指し、早く行けと瀬良君に訴えた。それに瀬良君は難色を示すも、諦めたように分かったと呟くと、私の方に向き直る。
「吉岡さん。俺ちょっと行かなきゃなんねぇんだけど、もう帰る?」
「あーうん、そろそろ帰ろうかな」
「…そっかー」
私の答えに相槌を打つも、なんだか納得がいっていないというか、受け入れ難そうな表情で私を見つめる瀬良君。私はすぐに分かった。
「…待ってようか?」
「ほんと?!」
「もう少しなら」
「平気!すぐ終わる!!」
そして、「行ってくる!」と、ピカピカの笑顔を浮かべて出て行く彼の後ろ姿を見送って、やれやれと私が一息ついた、その時だった。つかつかと入り口に居た彼がこちらに向かって歩き出したかと思うと、私の隣でピタリと足を止めた。
「吉岡さんは、あいつの事好きなの?」
それは唐突に投げかけられた。あまりにも予想外の事態に私は無駄に瞬きを繰り返して、彼の顔に向かって何も考えず声を発するように口が動いた。
「あいつって、」
「透。瀬良 透」
「瀬、良君とは、付き合ってません」
「じゃなくて吉岡さんの気持ちの話をしてんの」
「……」
気持ちって、好きかって、それって、
「恋愛感情を抱いてるかって、事?」
恐る恐るに近い状態で尋ねると、ふわふわと少し癖を持つ彼の黒髪が揺れた。そうだと、彼は縦に首を振ったのだ。