大事にされたいのは君
付き合ってるのかと聞かれる事はよくあった。噂されているのも知っていた。でも、こんな風に聞かれたのは初めてだ。それもこんなに面と向かって、真っ直ぐハッキリと。
彼の声は平坦だった。ジッとこちらを見つめる瞳に居心地の悪さを感じるという事は、きっと彼は私に良い気持ちは抱いていないのだろう。では、一体何故?何故そんな事を?その答えをどうしようというの?
「瀬良君の事は好きだけど、恋愛とは違うと思う」
とりあえず、聞かれた事を答えてみた。すると彼は、「ふーん」と適当な返事をするとコテンと首を傾げる。
「じゃあなんであいつに付き合ってやってんの?結構ウザいでしょ」
「う、ウザい?」
「うん」
「いやそんなウザいとかは、今は別に…」
「始めは思ってたんだ?」
「……」
表情をあまり浮かべない彼は的確に痛い所を突いてきて、まるで責められているような気持ちになる。何をどう返すのが正解なのかが分からず、私は一度口を閉じる事にした。変な事をうっかりこぼしてしまったらいけない。きっと何か聞きたい言葉、言わせたい言葉が彼にはあるような気がして仕方ない。何故彼はこんな事を聞くのだろう。何故彼はこんなに私の事を警戒しているのだろう。
「…三好君は、瀬良君の事を心配してるの?」
初めて二人で話す彼との妙な会話に考え巡らせ、辿り着いた答えはそこだった。目の前の彼の瞳が驚きに一回り大きく開かれるのを見て、緊張感を持って返ってくる答えを待つ。
「吉岡さんって俺の名前知ってたんだ」
しかしまさかの、ここで返って来たのはまさかのどこかで聞いた事のある答えで、
「…クラスメイトの名前くらい分かるよ」
私もその時と同じ返事をするのだった。
彼の名前は三好 祐樹(みよし ゆうき)。なぜ皆揃って私が他人の名前を覚えない女だという認識なのだろう。怖い。