大事にされたいのは君
「まぁあいつは良い奴だよ。俺に根気よく付き合ってくれるし、全部知ってるし」
「瀬良君も大事に思ってるんだね」
「大事ってゆーか…ただの腐れ縁なんだけどなー」
そして、だから何?とでも言いたげに彼は首を傾げて私を見たけれど、私はそれに気づかない振りをして、「そっか」と、あっさりとした声色を返した。
ーー私は、瀬良君を一番大事に思うと決めた。彼の寂しさを埋められる存在になるのだと。
なりたいと思ったのは私。だから彼が満たされたその時、または私では満たされなくなったその時、私から去る彼に傷つけられようが構わないと決心した。傷ついたとしてもそれは私が決めた事。分かっていて受け入れた事。彼に非はない。余計に傷つくような馬鹿な真似は絶対にしたくなかった。
昨日三好君が言ったように、瀬良君と仲良くなるにあたって私にはその心構えが必要だった。彼の傍に居る為には、彼を傍に置く為には、彼で私を満足させる為には…なんて、心構えの理由を挙げれば挙げる程、結局それは全て彼と付き合う上での自分の為のものでしかなく、それに気づいたのは三好君にこぼした言葉の冷たさでの事だった。
改めて見つめ返すと、私は私の保身しか考えておらず、彼を一番大事に思うなんて言っておいて、こうして私に忠告するような行動に移した三好君に比べて実際にそれを実行出来ているのかと言われると、自信を持って頷く事が出来ない今があった。
私の事が必要だと、瀬良君は言う。距離が近くなればなる程、彼はそれを口にする事が増えた気がする。それはつまり、私が彼の求めているものに応えられていないのだと、そういう事なのでは無いだろうか…なんて、今までを振り返れば振り返る程情け無い現実にぶち当たった。私は彼の為に何をしてあげられたというのか。三好君で足りないものを、私が何故満たしてあげられたなんて勘違いをしていたのだろうか。
結局私には、彼を想う気持ちが足りないのだと思った。彼に与えられるものが足りない。必要なのだと、何とかちゃんと想っている事だけでも伝えたい。…それなのに、
「私も三好君みたいに君の力になりたい。でもどうすればいいのか思いつかない」
なんて、結局答えを丸投げにするような事しか本人に言えず、
「じゃあまた放課後の時間ちょうだい」
と、彼にまた求めさせてしまう結果に終わるのだった。