大事にされたいのは君
本当に、これでいいのだろうか。
本当に、こんな関係でいいのだろうか。
彼に求められてそれに応えるだけの関係を私は求めたのだ。それはきっと瀬良君も同じ。求める先を見つけて受け入れてもらえる事に満たされている。だから私達はちょうど良い関係を築けたのだ。でも、それってとても不安定…というか、正しくないもの、のような気がする。
君が必要だよ、と、確認しあう関係なんて。
あぁそうかと、分かった気がした。何故昨日帰り際の彼の言葉に返事をしながら、心の中で疑問に思う自分が居たのか。これでいいのかというのは、これで合っているのかという事だったのだ。必要だと求めさせて当たり前のようにそれに応える関係でいいのかと。彼を傷つけたくない、大事にしたいと思うなら、こんな風に彼に言葉にさせて求めさせるだけではいけないはず。求められる前に気づけるはず。私の想いが強ければ、彼も不安になる事無く、この確認作業も生まれなかったはず。
だから私は気が付いた。彼を一番想っているのは、満たせるのは、私では無いのかもしれないのだと。
そして急に不安になった。当たり前の事を忘れていた。そうだった、本当に一人なのは私だけで、彼は違う。彼は寂しがりなだけ。欲張りなだけ。気づいていないだけ。彼は他人の感情に興味が無いだけ。本当の意味で彼しか居ないのは私だけで、彼には代わりが沢山居る。私と同じ気持ちを抱いている人間はごまんと居るのだ。
もし彼の気分がふらりと動いた時、もう私はここに居ないのだろう。彼の隣に居たい人は沢山居る。彼を想う人も沢山居る。本来なら私が私の満足の為だけに利用出来る人では無いのだ。傷つく準備なんてしている場合ではないのだ。
ライバルは、沢山居る。
「…ライバル」
口にしてみると、なんだか可笑しな気持ちになった。ライバルってなんだ。別に恋してる訳でも無いのに、誰と競おうというのだ。誰と取り合おうというのだ…けれど実際に今、私は一つの席を譲りたくなくて焦っている。彼を一番大事に思っているのが私ではないのかもしない事に気づいただけで、今までを振り返り後悔して関係を見直すくらいに動揺している。