大事にされたいのは君

急に現れたその言葉にハッとして朋花ちゃんの方を見る。するとそこには、ハの字に眉尻を下げたちょっと困ったような彼女の表情があった。

「私、知らなかったな。ごめんね力になれなくて」

そして、「ちょっと悔しい」なんて続ける彼女は私に笑ってみせた。力無く笑うその表情に私はまず衝撃を受けて固まってしまったけれど、慌てて違うのだと否定した。朋花ちゃんに秘密にしていただとか、朋花ちゃんに不満があるだとか、そういう訳ではないのだと。朋花ちゃんが私にとっての一番の友達なのだと。とにかく焦ってそんな事を口にしたと思う。
すると彼女は困った笑顔のままではあったけれど、「ありがとう」と返してくれた。

「瀬良が絡んでくるようになってから、由梨ちゃんの事他の人から聞く事が増えたから…一緒に帰ったりしてるの知らなかったし」

「あ…うん、ごめんね。瀬良君の事はなんか、自分の中で手一杯だったから…」

「いいのいいの、聞かなかったのは私だし。でもちょっとだけ、今まで仲良かったのは私なのになーって思ったりして」

「なんか瀬良に取られちゃった感じするなー」なんて、朋花ちゃんは冗談混じりに笑いながら言うと、ピタリと動きを止めて私の目をジッと見た。私も思わず背筋を伸ばしてその視線に応える。

「良かったね、由梨ちゃん。瀬良と話すようになってから由梨ちゃん、なんかちょっと変わったよね」

「瀬良は由梨ちゃんの世界を広げてくれたんだね」そう言った彼女はまたにっこりと微笑んで、「じゃあ行こっか!」と、私の手を取り教室を出た。次は生物だ、生物室へと向かわなければならなかったからだ。

「あ、付き合ったら始めに教えてね」

「付き合っ…わないよ、私と瀬良君は」

急に何を言い出すのだと驚く私に、朋花ちゃんは「そうかなー?」と、悪戯っ子のような表情を浮かべて言った。とても楽しそうに、なんだかスッキリしたような様子の彼女は、それ以降これで終わりだと、無闇にこの話題を持ち出す事は無かった。そのサッパリとした所が朋花ちゃんの良い所だなぁとしみじみと感じた。
< 79 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop