大事にされたいのは君
『瀬良と話すようになってから由梨ちゃん、なんかちょっと変わったよね』
…朋花ちゃんの言った言葉が、私の中に残る。
『瀬良は由梨ちゃんの世界を広げてくれたんだね』
そんな事、誰にも言われた事が無かった。誰にも気にされた事が無かったと思っていたけれど、朋花ちゃんはずっと私の様子を気にかけてくれていた。だから、私が気づいてもいなかった私に気づいてくれた。
私の世界が、広がっている。
正しくその通りだと思った。私は私の思い込みだけの閉じた世界から、彼に手を引かれるように一歩踏み出したのだと思う。いつの間にか私の周りにいる人に目が向いた。線の外側では無く内側に居た自分に気づいて、自分からそこを出たいと思う自分を認められるようになった。全ては瀬良君が私を見つけてくれて、誘ってくれて、受け入れてくれたからだ。瀬良君が私を連れ出してくれた。ただの背景だった世界は、私を取り囲む綺麗な景色に変わろうとしていた。彼の世界に一歩、私を招き入れてくれたのだと思った。きっとここは、彼の世界のほんの一部。
あぁ、彼に会いたい。
同じクラスで先程まで一緒だったというのに可笑しな話だと思うけれど、まず浮かんだのがそんな想いだった。なんだかずっと瀬良君と話していないような気がする。二人きりで話をしたのだって昨日のこと。今朝だって一緒に登校したし、ずっと視界に入っているはずなのに。今日の放課後は会う約束をしているなと思うと、それが待ち遠しくて仕方なかった。瀬良君に伝えたい事がある。瀬良君にしか話せない事がある。
はやく放課後がくればいいのに。
ーーそんな事ばかり考えて過ごした午後の授業。ようやく終わりのチャイムが鳴り、ホームルームを終えて迎えた放課後。
ガヤガヤとクラスメイトが一人、また一人と帰って行き、ポツンと私一人が教室に残る頃。ガラリとドアを開く音と共に、彼は教室に戻って来た。
「瀬良君!」
「へ?あ、え?何?」