大事にされたいのは君

待っていましたとばかりに彼の名を呼ぶと、どうかしたのかと、何度か瞬きを繰り返した瀬良君は訳の分かっていない顔をして私の隣の席へと腰を下ろした。いつもは割とあっさりとした反応を返している自覚が私にだってある。だからこんな風に名前を呼ばれて戸惑う彼の気持ちは大いに分かったけれど、今日はそんな事は気にならない。気にするよりもまずやるべき事があった。

「ありがとう。瀬良君のおかげで私、変われた気がする」

ありがとうと、感謝の気持ちを伝えたかった。君のおかげで私は変われましたと。

「視野が広がったの。自分の世界に閉じこもってただけなんだなぁって。きっと私が思っている事と違う事も沢山あるのかもしれないって」

もちろん自分のせいで失敗した一年前を忘れた訳ではないけれど、もしかしたら私だけが勘違いをしている事があの時にだってあるのかも知れない、なんて。周りに目をやる余裕が出来た。

「瀬良君が声をかけてくれたから。瀬良君が傍に居てくれたから。私を外に引っ張り出してくれたから。だからなんだなぁって、実感した。いつも瀬良君は私を満たしてくれる」

そこでいつもだったら、私は君の力になれていないのに…とか、私では君に釣り合わない…だとかって後ろ向きな気持ちで閉じこもって居ただろうと思う。でも、今は違った。とにかく前向きな気持ちで一杯で、なんだか浮かれたような気分だった。

「ありがとう瀬良君。全部瀬良君のおかげです」

繰り返す感謝の気持ちは押し付けがましかったかもしれない。それでも今の私はそれが言いたかった。溢れ出る想いを口にしたかった。

「…でも俺は、吉岡さんにみんなと仲良くなって貰おうなんて思い付きもしなかったし、今日の事でそんな風に思ったんならそれは祐樹のおかげだ」

…だから瀬良君がそんな風に言う事に特に引っかかりを覚える事もなく、謙遜しているのかな、くらいの気持ちだった。

「提案してくれたのは三好君だけど、瀬良君が居なかったら三好君とも知り合えてないよ。瀬良君のおかげで私の周りに人が増えたんだよ」
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