大事にされたいのは君
君は好きな人
君に距離を感じる
可笑しな話、振られた事でようやく自覚した。ようやく私は、私の彼へと抱いている気持ちが何なのかを理解したのだ。あの言葉には込められた想いが確かにあったのだけれど、残念ながらその想いはもう手遅れのものになってしまった。
私は、彼の事が好きだ。それ以外に答えなんてなかった。
だからこそ、何故なのだと私は私が理解出来なかった。何故気がつかなかったのかと。こんなにも特別で、こんなにも傍に居て、こんなにも振り回されてしまうのなんて、そういう事に決まっている。友達の中で一番だと言われて素直に喜べないなんて、それ以外に考えられる訳がないではないか。
自分の恋愛経験の足りなさを本気で恨む…せめて自覚していたのなら、それならきっともっと上手くやれただろうに。ちゃんとした形で告白する事だってきっと出来たはずなのに…私の恋愛は無意識に無自覚で無計画な、最低な結末を迎える事となった。
「はぁ…」
「ん?溜息なんて珍しーね。何かあった?」
まるで悩み相談をして当たり前のように尋ねてくる彼は、只今絶賛私を悩ませ続ける張本人である。
「ううん。なんでもない」
「本当?なんか元気なくね?」
目敏い彼にはすぐにバレてしまう。心配そうに覗き込んで来る彼の瞳を直視出来ず、そっと顔を逸らしてしまった。
「元気だよ、至って健康。溜息なんて深呼吸みたいなものだよ」
「それは随分ワイルドだな」
大袈裟に驚いているのだろうなと思いつつ、私はふいっとそっぽを向いたままで彼の言葉を聞い流していた。昨日も今日も彼は彼、瀬良 透は瀬良 透。何も変わらない。それにホッとすべきなのか、残念に思うべきなのか…それすらも分からないまま彼と今日も放課後を共にしている。何も変わらない日常だった。