To serve one's lord!!
「......3万でどう?」
両親の死に関する諸々の事が済み、私たちは一旦母の遠縁であるというおばさんに引き取られた。一銭の得にもならないのに有難いことだと最初こそ感謝していたが、おばさんの目的は両親の生命保険金だったらしい。生命保険に加入していなかった事を伝えるとじゃあ用済みだ、とばかりにぽいされた。しかも、飯食わせて損した!と言わんばかりに私の所持していた数少ないアクセサリー類を根こそぎ奪いやがった。クソババアめ、一生許さん。
事を荒立てたくは無かったし、何か言って弓弦に危害が及んだらそれこそ死んだ両親に顔向けができない。ぶん殴ってやりたいのをぐっと堪え、おばさんの酷い仕打ちを甘んじて受け入れた。
という訳で私たちの現在の居場所は嘗ての自宅からほど近い小さな公園。
自力で自分たちが住んでいた家まで戻ってきたが、あの憎きババアの仕業か、家はとっくに名義変更されており、大家さんからは「可哀想にね」の一言と共に飴玉を2つ頂いた。同情するなら金をくれ、とはまさにこの事である。
「まだ足りない?欲張りなお嬢ちゃんだなぁ......じゃあ5万は?」
先程からうるさいのは援交のお誘い。
身寄りがなく、金ももちろん無いので弓弦を養って行くには身体を売るのも仕方ないのかも知れない。
そう、頭の中で考えてはいたし、納得もしていたけどやっぱり怖かった。だからせめてもの時間稼ぎで、私はおっさんが提示する金額に中々首を縦にふらなかった。どうせ失うなら貰えるだけ貰った方がいい。
「あれ?」
この男はいくら出してくれるのか。
ぼーっとする頭で酒臭いそいつの顔を眺めていたら不意に背後から声をかけられた。
若い、男の声。
―――しかも、どこかで聞き覚えのあるような。
どうか知り合いじゃありませんように。
いや、聞き覚えのある声から呼びかけられているなんて、知り合い以外のなにものでもないけど。
せめて、高校の同級生とかいうオチはほんとうにやめて頂きたい。
こんな場面、見られたら物凄く不味い。
恐る恐る振り返ると、そこには。
「伊波じゃねーか。こんな時間にどうしたんだ?」
「ッた、鷹山くんッ......」
鷹山冴響。
私の切な願いも虚しく、そこに居たのは私が通う若葉ヶ丘高校の同級生だった。
しかもイケメンだの、金持ちだのとやたら騒がれまくっている、「王子様」。
人に興味のない、私でも名前と顔が一致するほどの有名人。
話したのは今日が初めて。
なんで私の名前を知っているか疑問だけど。
不味い場面を見られてしまった......。
「ん?このおっさん誰だ?」
私から発せられるただならぬオーラに気づいてか気づかずか、鷹山くんは私を誘っていたおっさんを睨みつける。いや、睨みつけたつもりはないのかもしれないが鷹山くんは眼光が鋭い。切れ長な目であることも助長して、酒に酔っているそのおっさんは見事に震え上がった。そして、逃げ出した。
へっぴり腰になりながら、よく分からない呻き声を上げながら公園を走り去るその姿はじつに滑稽で。
「っふふ」
さっきまでの状況を鑑みると全く笑えないはずなのに、気がつけば私は笑みをこぼしていた。
両親の死に関する諸々の事が済み、私たちは一旦母の遠縁であるというおばさんに引き取られた。一銭の得にもならないのに有難いことだと最初こそ感謝していたが、おばさんの目的は両親の生命保険金だったらしい。生命保険に加入していなかった事を伝えるとじゃあ用済みだ、とばかりにぽいされた。しかも、飯食わせて損した!と言わんばかりに私の所持していた数少ないアクセサリー類を根こそぎ奪いやがった。クソババアめ、一生許さん。
事を荒立てたくは無かったし、何か言って弓弦に危害が及んだらそれこそ死んだ両親に顔向けができない。ぶん殴ってやりたいのをぐっと堪え、おばさんの酷い仕打ちを甘んじて受け入れた。
という訳で私たちの現在の居場所は嘗ての自宅からほど近い小さな公園。
自力で自分たちが住んでいた家まで戻ってきたが、あの憎きババアの仕業か、家はとっくに名義変更されており、大家さんからは「可哀想にね」の一言と共に飴玉を2つ頂いた。同情するなら金をくれ、とはまさにこの事である。
「まだ足りない?欲張りなお嬢ちゃんだなぁ......じゃあ5万は?」
先程からうるさいのは援交のお誘い。
身寄りがなく、金ももちろん無いので弓弦を養って行くには身体を売るのも仕方ないのかも知れない。
そう、頭の中で考えてはいたし、納得もしていたけどやっぱり怖かった。だからせめてもの時間稼ぎで、私はおっさんが提示する金額に中々首を縦にふらなかった。どうせ失うなら貰えるだけ貰った方がいい。
「あれ?」
この男はいくら出してくれるのか。
ぼーっとする頭で酒臭いそいつの顔を眺めていたら不意に背後から声をかけられた。
若い、男の声。
―――しかも、どこかで聞き覚えのあるような。
どうか知り合いじゃありませんように。
いや、聞き覚えのある声から呼びかけられているなんて、知り合い以外のなにものでもないけど。
せめて、高校の同級生とかいうオチはほんとうにやめて頂きたい。
こんな場面、見られたら物凄く不味い。
恐る恐る振り返ると、そこには。
「伊波じゃねーか。こんな時間にどうしたんだ?」
「ッた、鷹山くんッ......」
鷹山冴響。
私の切な願いも虚しく、そこに居たのは私が通う若葉ヶ丘高校の同級生だった。
しかもイケメンだの、金持ちだのとやたら騒がれまくっている、「王子様」。
人に興味のない、私でも名前と顔が一致するほどの有名人。
話したのは今日が初めて。
なんで私の名前を知っているか疑問だけど。
不味い場面を見られてしまった......。
「ん?このおっさん誰だ?」
私から発せられるただならぬオーラに気づいてか気づかずか、鷹山くんは私を誘っていたおっさんを睨みつける。いや、睨みつけたつもりはないのかもしれないが鷹山くんは眼光が鋭い。切れ長な目であることも助長して、酒に酔っているそのおっさんは見事に震え上がった。そして、逃げ出した。
へっぴり腰になりながら、よく分からない呻き声を上げながら公園を走り去るその姿はじつに滑稽で。
「っふふ」
さっきまでの状況を鑑みると全く笑えないはずなのに、気がつけば私は笑みをこぼしていた。