Vanilla
次の瞬間、朝永さんは掴んでいた私の手をやっと解放し、顔を背けて沈黙を作る。

どうやら私の言葉に萎えてくれたようだ。

私はそんな彼を見ながら、自分に戸惑いを感じていた。
だって諦めてくれて安心するはずの心が何故か更に苦しくなったから。

……私、どうしたいの?
襲って欲しかったの?
でも嫌だって思ったじゃない……。
自分のことなのに、わけが分からないよ……。
それに目の前の朝永さんは機嫌を損ねて、顔を背けたままだし……。

私は初めて彼に楯突いた。
もう私をこの家に置いてくれないかもしれない。

でも、それでも、このまま流されなく無かった……。

この家の主は朝永さん。
彼に背いている時点で、この家を出るべきなのかもしれないと思った。


「……私がこの家に居ること、迷惑じゃないですか……?迷惑なら、今すぐ、出ていきますから……」

彼の様子をチラチラ窺いながら溢した。
覚悟を決めて発したけれど、やはりお金の事が気になって強く言えなかったし、答えは分かっているのに彼に委ねる形になってしまった。
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