Vanilla
帰りまで引っ張ろうか迷った。
でもここで先延ばししたら、また仕事でミスもしそうだし、また怖くなりそうだし、そのまま永遠に先延ばししそうで。
それに恋人役の今なら、私が傷つかない答えを返してくれるかもしれないと思った。

お昼に朝永さんに訊こうと心に決めた。




『キーンコーンカーンコーン……』

お昼のチャイムが鳴り響いた。
フロアには少し雑音が増える。
私はすぐに立ち上がり、朝永さんを探す。
朝永さんは休憩に向かう波の中に居て、既にオフィスの出入り口に向かっている。

捕まえなくてはっ!


「と、朝永さんっ」

私は走って休憩に向かおうとした朝永さんの腕を捕まえた。

「何?」

恋人役スマイルで私に振り返った朝永さん。
その顔に少しホッとしたが、

「あのっ、少し、話がっ、お時間、良いですかっ!?」

やっぱり緊張しすぎてスムーズに言葉が出てくれない。
朝永さんの腕を掴んだまま。
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