Vanilla
「まぁ、ボチボチです……」

恋人役を演じるが、口の端が変に引き攣った。

目の前に幸せそうな二人が居るからだろうか。
自分のこの現状に空しさしかしか感じない。

だって数分前、気分で抱いたなんて好きな人に言われてニコニコ笑える人なんていない。


「朝永君ってデート、何処に連れてってくれるの?」

何も知らない穂香さんは私の状況なんてお構いなしに質問を飛ばしてくる。

私はお弁当箱を広げた。
食べ始めたら俯くことが出来るから引き攣った顔を見せなくて済む。
それにお弁当を食べ始めたら口の中に食べ物が入るから、少しくらい笑わなくても誤魔化せそう。

「この前は駅前に服を見に行きました」

返せそうな質問に安堵する。

「朝永君、ショッピングに付き合ったりするんだね」

意外と目を見開く穂香さん。

とりあえず口にミートボールを運んだ私。
でも味を感じない。
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