Vanilla
振り向くとそこには私の隣のデスクの一つ先輩の男性社員、杉森《すぎもり》さん。
生徒手帳に書いてある校則のように、耳や目にはかかっていない優等生なヘアスタイルで、ナチュラルな黒色はきっと髪も染めたことすら無さそう。
その見た目通り、仕事も優等生。
期限よりも前にしっかり仕事を終わらせるし、分からないことがあるといつも優しく丁寧に教えてくれる。
おっとりとした雰囲気だから、内気な私でも訊き易い。

そんな杉森さんが、隣のデスクで口を開いたまま私を見て驚いている。
どうやら私達の会話を聞いたらしい。

「違いますよ。女の人に手を出しているっていうのが気になっただけです」

ムキになって否定したら余計に怪しまれると思い、冷静に否定した。

「そっか。でもちょっと間違ってるよ。朝永さんは手を出しまくってるが正解」

クスっとふざけて返した杉森さん。

「朝永君、つぐみちゃんに手出したの!?」

そこに再び突然割り入ってきた声。
私達は振り返る。

「違いますよっ」

私はまた否定する。
また勘違いした人が増えた。

「あー、良かった……あ、それよりもおはよう」

彼女は安堵すると朝から癒される爽やかな笑顔を私達に向けた。
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