Vanilla
私の鼓動は変に大きな音を立てている。

私は男の人と付き合ったことすら無いし、アピールすらされたことも無い恋愛経験値ゼロの初心者。

整った顔が目の前で、優しく蕩けさせるような甘い表情を作っている。

更には私の耳に聞いたこともない柔らかいトーンで優しく響かせて。

ドキドキしない方がどうかしている。


私が動けないでいると、朝永さんは私の瞳をじっと見つめた後、

「今日、早くあがれるから待ってろよ?」

そう言って上半身を起こし、私のデスクから十メートル程離れた自分のデスクへ向かって行った。
何故か何度も振り返って。

私は未だ呆然。
状況を理解できなくて、鼓動は速いまま。

あの顔、優しくて、蕩けさせるような、甘すぎる顔……

まるで恋人に見せるような……


「「ちょっとどういうこと!?」」


愛佳ちゃんと穂香さんの耳の鼓膜を突き破るような発狂の後、始業ベルが鳴るまで二人から質問攻めの嵐。
私は「ワケが分からないんです」と苦笑いするしかなかった。
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