Vanilla
落ち着けるようにと息を大きく吐いた。

朝永さんは後にしよう。
私は一先ず朝永さんを頭の片隅に押すと、再び指を動かす。

『今日のお昼にちょっと用事があるから一人で食べてくれないかな?』

ごめんねのスタンプをつけて愛佳ちゃんに送信した。

今日は一人になりたかった。




私はそれからギリギリの時間までそこで過ごした。
誰ともすれ違わなくて、落ち着けた。

始業ベルの一分前にオフィスに走った。
下を向いたまま誰とも話さずに自分の席に着くと、チャイムが聞こえてきて安堵した。

朝永さんを視界に入れたくなかった。
恋人のフリもしたくなかった。
あんな酷いことをされても、私の所に来てくれたら、馬鹿な自分が期待しそうで怖かったから。




三時間後、休憩時間を告げるベルが聞こえてくると私は走った。
コンビニで買っておいたパンを持って、あの階段へ向かった。

ひんやりと冷たい階段の床。
気にもせずに私はパンの袋を開ける。
< 423 / 566 >

この作品をシェア

pagetop