Vanilla
「嘘って?」

もう惚けなくても良いですよ。
私、全部知ってるんですから。
朝永さんが言えないなら、穂香さんの前で言ってあげますから。

私は顔を上げて、朝永さんを見据えて告げた。


「朝永さん、忘れられない好きな人がいるじゃないですか。ペアの食器の彼女のこと」

気分で私を抱いたことを後悔するくらいなら、本人に素直になれば良いのに。


「私じゃなくても良かったんでしょ?」

私の追い討ちの言葉に朝永さんは動揺したのだろう、大きく瞳をグラつかせた。
私はその隙に掴まれていた手を振り払う。


「昨日も言いましたけど、お世話になりました」

朝永さんに頭を深く下げた。
置いてくれたことには本当に感謝している。


「……仕事が終わったら話をしよう」

はい?話って?

終わると思っていたのに終わらず、頭上に聞こえてきた声に驚いて顔を上げる。
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