Vanilla
「も、もしもし!」

私は電話に出ながら目の前に座っている朝永さんに背を向けた。
だってしー君との会話を聞かれているのは気まずいもの。

『つぐみ、俺。元気?』

耳にはいつもと変わりないしー君の声。

「あ、うん!先週はごめんね、すぐに切っちゃって!」

『大丈夫だよ。そーれーよーりー、この前何で慌てて切ったわけー?彼氏でも出来たわけ〜?』

からかうような口調のしー君の直球に硬直する。

きっとしー君はいつも通りふざけただけ。
まさか本当に彼氏が出来たなんて思っていない。

出来ました。と言えば良いが、口が動かない。

私が彼氏出来たよって自慢する性格じゃないし、それに人生初の彼氏というのもあってどうしたら良いか分からないし、なにより真後ろにはご本人に朝永さんがいる。

恥ずかしすぎる。


「つぐみは俺が一生面倒みるから大丈夫」

「え」


話すのを躊躇していたら、携帯を持つ耳の近くから聞こえてきた低い声。
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