Vanilla
「な、無いです、けど」

変にドキドキして、視線が彷徨う私。

「じゃ座れ」

そう言うと手首をパッと解放された。
私は泳がせていた視線を戻す。

座れ、というのは、貴方の目の前の空いている席に……?

朝永さんの機嫌を損ねることは避けたい。
だって機嫌を損ねさせると『クビ』をちらつかせてくるから。

拒否したかったが、私はやむ無く指示に従い、朝永さんの向かえに静かに腰を下ろした。


『しーん……』


だが座れと言ったくせに何も話さない朝永さん。
片手でスマホを見ながら、黙々と私の作った朝食を食べている。

ち、沈黙が、重すぎる……。
だって私は朝食も食べ終えているわけで、やることも特に無い。


「……あの、訊いて、良いですか?」

沈黙に耐え兼ねた私から会話を切り出すことにした。
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