Vanilla
苛々し始めた時、バチリと視線が合う。

「やりたくないなんて言うつもりか?」

苛立ちが顔に出ていたのか、朝永さんは私に威圧するような低い声を投げてきた。

ヤバイ、この流れは会社にバラすぞだ。

「め、滅相もございませんっ」

私は思ってもいないことを必死に返して取り繕う。

「朝、一緒に出るぞ」

……マジですか。


それから会話は止まった。
だって朝永さんの事は何も知らないから、何を話せば良いのか分からない。

朝永さんが朝食を食べ終わると後片付けと家を出る時間まで掃除をした。
だって何かやっていないと間が持たない。

家を出ると少し安堵した。
車の走る音や雑踏が、この微妙な空気を助けてくれるから。

電車に乗り、会社に向かうまでもずっと無言。
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