御曹司と小説家の淡い恋模様
いつもの様にパソコンの電源を落とす。

今日は本業できるかな。
本業ができない程に追い込まれると私の生活に支障をきたす。

それって本末転倒でしょう。

「榎田さん。帰る前に話をしよう。」

そんな事を考えていると、宇津木課長に呼び出しを受けた。
課長に呼び出されるだけでみんなの冷たい視線が私に向く。
人の事より仕事しろと言いたくなるほどに。
ちゃんと断ろう。私は返事をし宇津木課長の背中を追った。

数時間前、冷たい空気を漂わしていた会議室。

でも、今は2人きり。

私から話を切り出した。

「すみませんが先程の話はお請けできません。私は派遣社員です。この会社のルールでしょう。派遣社員に案件を持たせないことですよね。」

私はここのルールをきちんと説明した。
普通逆でしょう。

「そんなルール誰が決めたんだ?」

「・・・解りません。」
そう言われましても。
入って10ヶ月の私がわかる訳ないでしょう。

「誰が決めたルールかも解らないものに縛られる必要はない。私は、この会社を風通しのいい会社にしたい。それには社員も派遣社員も関係ないないだろ。」

それは、理想でしょう。
現実は違う。
理想を現実に変えていくのはかなりの労力を要する。

それに私は残業なんかしてる暇はないの。


「私の契約は残業なしになっています。残業はできません。だから、この案件に携わるのは無理です。もし、命令に従わないのが気にくわなければ、契約解除してもらっても構いません。」

ここまで言えば諦めるでしょう。
私は、自信に満ちた気持ちでいっぱいだった。
次の瞬間、この自信がすぐに崩れていった。

「契約解除はしない。明日から俺の営業アシスタントになってもらう。もう、終業時間だ帰ってもらって構わないよ。」

私は言葉を失った。
あそこまで言えば、諦めてくれると思ったのに。

もう、話す気力が残っていなかった。
頭を下げ、魂が抜けた表情のまま、デスクに戻っていった。




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