御曹司と小説家の淡い恋模様
時計を見ると、時間は7時45分。
昨日より、30分も早い。
これだったら、仕事時間に間に合う。

エレベーターのボタンを晴れ晴れした気持ちで押す。

宇津木課長は現れないよね。
今、ここで会ったらどんな顔をしたらいいかわからない。
私は周りをキョロキョロした。
宇津木課長の姿はない。


安心して妄想を始めた。
U&Aコーポレーションの課長職の給料だけでは、こんな高いマンションなんか住めない。

もしかして、宇津木課長は凄いお金持ちの家の人?
そんな、単純な結末つまらないよね。もっと面白い結末考えないと。

本当は貧乏で、苦学生だった。
両親に死なれ、そこに現れたのが母方の祖父・・・。

その祖父は資産家。
娘が結婚する時に、身分違いの為に反対する。
それで、娘が駆け落ちする。
居場所が見つかった時には娘は死んでいた。

引き取り手がなかったので、宇津木課長を引き取る。

「ありきたりかー。」
思わず声に出してしまった。

「何がありきたり?」

振り向くと宇津木課長が立っていた。
宇津木課長を見た瞬間、私は見てはいけないものを見てしまったような表情を浮かべた。

「おはよう。今日は早いね。」

「・・・・おはようございます。毎日、時間ギリギリで出勤する程強い心臓ではないので。」

今日まで、時間ギリギリで出勤して怒られていたら、私の心が持たない。

「そうは見えないけど。上司にあそこまで啖呵切れるんだから。」

仕事内容に関して、強く出ることはできるけど、社会人として、勤務時間ギリギリに出勤するのは、マナー違反である。

「さすがに社会人としてそれできません。」

「社会人としてね。」
意味深の笑みを浮かべ私に話しかけて来た。
突っ込みを入れようとした瞬間、エレベーターの到着音が聞こえ、分厚いドアが開いた。
宇津木課長はエレベーターに乗りこみ、私もその後に続くように乗り込んだ。

エレベーターに乗っている間突っ込みを入れようかと思ったが、出勤時間のエレベーター。
各階に止まってしまい、気がつけば身の置き場がないぐらい人がいて、突っ込みを入れられなかった。




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