御曹司と小説家の淡い恋模様
「お帰りなさいませ。」

マンションのドアを開けるとコンシェルジュの方が挨拶をしてくれる。

帰宅するとほぼ人と会わない。
だから、コンシェルジュの人が、私がこれから過ごす長い時間の中で最後に会う人。

私はいつも精一杯の笑顔で会釈をする。
それがせめてもの人間らしい仕草だから。

ここのマンションは世にいう高級マンション。
それも50階立て。
朝はエレベーター渋滞が起こる。

でも、この時間はエレベーター渋滞が出来ないからすんなりと部屋まで行ける。

そうだよね。
高級マンションでこんな時間に帰宅する人いないよ。


私はエレベーターに乗り込み、50階のボタンを押した。

誰も乗っていないエレベーターはすぐに50階に到着した。




「ただいま。」

誰もいないとわかっていながらも声を出してしまう。

電気が付いている家に帰るのはもう何年もしていない。
電気が付いてる家へ帰るってどんな感じだったけ。
それを忘れるぐらい私は１人で戦っている。


時刻は17時20分。


今の派遣先で良いことは１つ。
マンションの近くだけという事だけ。
それは私にとってありがたい。

だって私の仕事はここから始まるんだもん。

誰も助けを求められない、孤独な戦いが待っている。



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