御曹司と小説家の淡い恋模様
昨日は10人近くいた会議室に、宇津木課長と2人。

私は隅っこの席に座った。
その横に宇津木課長も座った。
そして、ゆっくり私の質問に答えていった。

「昨日話した通り、榎田さんを当社の社員にむかえたいと思ってる。」

「私は!!」

私の言葉を遮る様に続きを話し始めた。

「当社の社員になることは榎田さんにとってメリットだと思うけど。社員教育はこれからし直そうと思ってる。今のままだと働きづらいよね。」

「そういうことではないです・・・。」


私は、小説家。
別にここの給料なんか私には微々たる物。
ただ、社会経験として働いてるだけ。
こんなことになるんだったら、もう働かない。

「榎田さんがどこかのお嬢様だってことはわかってる。失礼だけど、派遣社員じゃあ、あのマンションは住めないよね。」


「お嬢様ではないです!!」

私が、どこかの社長令嬢と勘違いしてるの?
私は命をかけて小説を書き上げてる。
のほほんとしたお嬢様と一緒にしないでよ。

「じゃあ。榎田さんは何者?」

誘導尋問だったんだ。
どうしよう。
自分で自分の墓穴を掘ってどうするの。
冷静にならないと。
頭が働かない。
なんて答えればいいの?

たった数秒間の沈黙が、何時間も尋問されている時間の長さを感じた。

「まあ。榎田さんの秘密はおいおい知るとして。しばらくは俺のアシスタントしてもらうから。」

沈黙の均衡を破ったのは宇津木課長だった。
宇津木課長は私のことどこまで知っているの?
もしかして、小説家だってバレてる。

「・・・はい。」

うつむきながら返事をした。

「そんな、困った顔しないで。笑って。」

「なんですか!?」

いきなり、アゴグイをして来た。
私は宇津木課長おもいっきり吹き飛ばしてしまった。


「怒ってる顔の方が榎田さんらしいよ。」

子供をあやすかような表情をした。
宇津木課長はつかみどころが微妙な人だ。
こんな人よく恋愛小説で出てくるよね。
私は、めったに書かないけど。



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