御曹司と小説家の淡い恋模様
就業時間から少ししか経過していない女子トイレは誰もいない。

しかし、間違って誰かがいた場合大変な事になるので誰もいないことを確認してから、携帯の電話ボタンを押した。

電話先は双葉書房の笹山さん。

双葉書房は私のデビュー作を出版してくれた出版社。

何があってもここの出版社からの仕事は断らない。

それは、私の辛い人生を明るいものと変えてくれた出版社だから。


それより、笹山さん電話に出ない。



笹山さん、締め切り間近になるとやたらと電話かけてくるのにこっちが用があると電話に出ないんだから。

本当に使えない。

私は、双葉書房の編集室に電話をした。

相手は福島さん。


去年、福島さんから笹山さんに担当が変わった。

福島さんは、私の本当の父親の様に私の私生活も心配してくれる人だった。

そんな、福島さんも部長に昇格し、私の担当を外れた。

担当を外れても、いつも私の事を気にして電話してくれたり、打ち合わせに顔を出したりしてくれている。

「いきなり編集室に電話してどうしたの?」

福島さんの穏やかな声を聞き、少し冷静さを取り戻した。

「すみません。これから、そちらへ打ち合わせに行く事になりました。その時は榎田凛として行くので、私の事知らない顔をして欲しいんです。それを笹山さんや周りの人に伝えて下さい。それでは。」

端的に用件を伝え相手の反応も聞かず電話を切った。

< 34 / 35 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop