秘/恋
……でも。
「なんでも、ないんだ」
簡単に口にできるなら
【秘密】は、
【秘密】じゃない。
むりやり引きつった笑みを
あたしは頬に張り付ける。
「『なんでもない』って名前の
大問題ね」
なぎが、
仕方なそうに溜め息をつく。
「そんなの、あきちんにはひとつしかないって」
座った位置から
う~ん、と手を伸ばして
なぎがあたしの前髪を
くしゃくしゃしてくれる。
「覚悟が決まったら
あたしには、
最初に話してね。
それで許してあげる」
なぎは
そこで会話を打ち切って
椅子を鳴らして立ち上がった。
「コーヒー買ってくる。
あきちんは?」
「い……」
「いちごみるくね。
りょーかーい」
ぶんぶん両手を振り回して
なぎは教室を出てってしまった。
残されたあたしは
やるせない溜め息。