秘/恋



「小岩井さんが、売れないからって大量にくれたんだよ。
賞味期限ギリだから、早めに消費してほしいってさ」


珍しいほどの陽気さで、明良が云う。

『小岩井さん』とは、近所の酒屋さんだ。

原チャリで配達に来てくれるおにーさんは優しくて格好よくて、あたしも明良も大好きだったりする。

……だったり、するけど。


「小岩井さんったら、なんでうちにくれるのよ! ありえない! 変! 変変!」


小岩井さん、ウチに飲酒できる人間は、ひとりしかいませんよ!

喚くあたしにまで、あろうことか、じいさまが缶ビールを押しつけてくる。


「おまえも飲め!」


ぷし、と飲み口をこちらに向けてまま、プルトップまで開けてくださりやがる。

冷たい飛沫が、頬に飛んだ。


「ひゃっ!」


思わず悲鳴をあげたあたしに、明良がゲラゲラ笑い声をあげる。

明良は、酒に弱い。

アルコールも本望だろうと思うほど、簡単に酔う。

……ついでに、次の日は必ず二日酔い。

どこまでもダメな酒飲みだ。


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