秘/恋



云った途端に後悔した。

違う。そうじゃない。

もっと軽いセリフがいくらでもあったはず。

明良だって、驚いているじゃないか。


――最悪のアホだ。


あわあわするあたしをよそに、明良がすっ、と、目を細めた。

ぴきん、と空気が凍り付く。


「教えない」


酔っ払いぶりなんて忘れたように、明良がささやく。


「明姫にだけは、教えない」


視線が、絡まる。


――終わっちゃった。


アルコールを云い訳に、昔通りを演じるお遊戯は、おしまい。

明良はするりと、猫みたいにリビングを出てってしまう。

気付けばじいさまは、食卓に突っ伏して眠ってしまっている。

残されたあたしは、ぐちゃぐちゃになった部屋を片付けながら――泣きそうになった。


絶対に、泣きやしないけど。


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