秘/恋
四限目終了のチャイムが、響き渡る。
その音に、バネ仕掛けのオモチャみたいな勢いで、樹也が立ち上がった。
「今日の気分は豚しゃぶ特盛~」
樹也がくちずさんだのは、学食最高値の、学生垂涎のメニュー。
「ゴージャスだね」
「景気づけ。変なコト云わされたから。明姫の奢りな」
「あたしのせいなの?!」
くだらない話をしながら、ざわつき始めた廊下をぽけぽけ歩く。
ゆるくてぬるい、時間の流れ。
それが唐突に、断ち切れた。
「……ッ」
同時に、ゆらゆら流されていた足が、ぴたりと止まる。
「明姫?」
突然隣から消えたあたしを、樹也が振り返る。
でもあたしは、それどころじゃなくて。
少しの離れた場所に立っているひとに、意識を持っていかれた。