秘/恋
「はじめまして、よね?
二‐六の都倉貴子。一応、あなたのお兄さんと付き合っています」
にっこり笑って、やっと固有名詞のついた彼女が云う。
「あなたのことは、よく明良から聞いてるわ」
ちくん、と胸が痛む。
「……って?」
「え?」
押し出した声はかすれて、都倉貴子サンには届かなかったみたい。
しかめられた綺麗な顔がいっそ癪で、あたしはもう一度、刺々しさを加えて繰り返した。
「なんて、明良はあたしのコト、話してるの? どんな風に?」
瞳も、勝手にきつくなる。
意味のない苛立ちだと、我ながら思う。
むやみにブラコンアピールをしたって、子供っぽく見られるだけ。
だけど、我慢できなかった。
『あんたになにがわかるの?』って、
あと一ミクロン勇気があったら、彼女につかみかかっていたかもしれない。
でも現実の内弁慶なあたしは、スカートのうえで両のこぶしを握りしめるだけ。
上目遣いににらむだけ。