秘/恋
「なぎ、呼び出しって」
職員室を無視して、物理科準備室を素通りした時点で、あたしは声をあげる。
「あんなの、ウソに決まってるでしょ。樹也から頼まれたのよ」
云い切って、ばさりと、なぎは背中に垂れた髪を払う。
「なによ、あきちんは用がなくても会いたいくらい、先生が好きなの?」
「冗談。会わなきゃならないときでも、ご遠慮する」
あたしはぶんぶん首を振る。
余計な動作で、なぎに置いていかれるくらい、なぎは早足で廊下を歩いていく。
ずんずんずんずん、歩いていく。
「それにしても、なんで、あんなのに付いて行くかなあ」
振り返りもせず、ちょっと怒った口調で、なぎが云い放つ。
「……なに、怒ってんの」
「あきちんが、アホ、だからよ」
はあ、となぎが、深いため息を吐く。
「別に、取って食われるとは思っていなかったけどね」
ほんのすこしだけ、なぎの歩調がゆるんだ。