秘/恋
「明姫? いんの?」
控えめに、ドアがノックされた。
同じくらい遠慮がちな、樹也の声が聞こえる。
「いるわよ、役立たず」
なぎが低く唸る。
細くドアが開き、その隙間に首を突っ込むようにして、ヒヨコ頭が顔を出した。
「彼女の救出を他人に押しつけるなんて、へたれにも程があるんじゃない?」
「俺よりも絶対、なぎのほうがうまくやるだろ? 俺が行ったら、余計こじれる」
「あきちんのためにあたしを使うなんて、いい度胸だね」
なぎが、ゆっくりと繰り返す。
「そう、あきちんのために、あたしをね」
樹也はふいをつかれたように動きを止める。
ストップモーション。
表情まで消えて、空っぽになる。