秘/恋
「樹也?」
思わず、あたしは腰を浮かせて、手を伸ばした。
だけど。
樹也はあたしが触れる前に、にやり、と唇の片方を引き上げた。
「……なぎ、頼まれなくたってやるだろ」
「もちろん。あきちんはあたしの大切な親友だもん。弱腰の彼氏よりも役に立つトコロ、見せておかないと」
なぎの憎まれ口。
にっこり、いやに鮮やかな微笑付き。
ちょっといびつに、樹也も笑う。
あたしにもちろりと、横目のお裾分け。
「生きてんじゃん」
「どういうリアクションよ」
「や、そのまんま」
樹也が入ると同時に、なぎが立ち上がる。
「授業、いまから出てくるわ」
スカートの裾を払って、樹也と視線を合わせる。
当たり前みたいに、樹也が手を差し出す。
なぎの細くてすべらかな手と
樹也の骨が太くてざらついた手。
ぱん、と。
二人の手が、鳴った。
スカートのシルエットの余韻を残して、なぎが出ていった。
――選手交代。
よどみのないコンビネーション。
……うらやましい。
あたしがなくしちゃったものを、ふたりはまだ持ち合わせている。