秘/恋
樹也の指先が、あたしの髪にふれて、絡まる。
ほったらかしの髪は、肩のうえではねている。
くしゃりとついたクセは、だらしなさの一歩手前で踏みとどまっている――つもりだ。自分では。
「なに、考えてるんだよ」
ぼうっとしていたら、乱暴に引っぱられた。
まるで人質みたいな、あたしの髪。
「しゃべれよ」
「しゃべるわよ。……しゃべるだけのネタがあったらね」
「あるだろ? そのアタマの中身、吐け」
「なにそれ」
「なに考えてるんだよっつってんの」
ぐるっと会話を元の場所まで引き回して、樹也があたしを見つめる。
『にらむ』というほど険がなく、でも充分に怖い眼力だ。
「なんにも」
「ウソつけ。吐けよ」
髪にふれた指は、離れない。
肩を捕まれて、爪を立てられてがしがし揺すられるよりも強い拘束力が、そこにある。
「あんたがどうしたいのか」
指なんかじゃない。
樹也が視線をはずさないかぎり、どうせあたしは動けない。
「なにが欲しいのか」