秘/恋
……はち……
出ていく樹也の背中を、
上目遣いに見送った。
涙は、止まっていた。
もともと意味のない水の塊は、行きがけの駄賃にひどい虚脱感を残していった。
ぼんやり視線をさまよわせて、目を醒ましているのかわからないまま、時間も見送る。
どれくらい、そうやってやりすごしていたのか。
いつのまにか、空は赤く、部屋は薄暗くなっていた。
……今日は結局、交通費をかけて学校に来て、一コマも授業に出てないろくでもない日。
「なにやってるんだろ、あたし」
昨日の夜から、ろくなことがない。
都合よく嘆きかけて、首を振る。
「いいことがあった分だけ、悪いことが起こるの」