秘/恋



「帰んの?」


気まぐれみたいに、明良が訊いてくる。


「帰るわよ」


距離を図りきれないあたしは、ぶっきらぼうな返事。


「じゃあ、一緒に帰るか?」


当たり前みたいに差し出された手。

あたしは、固まった。


「なんだよその顔」


皮肉っぽく、明良が唇をゆがめる。


「別にいいよ、嫌なら」

「ッ待ってよ」


背中を向けた明良を、慌てて追いかける。

長く伸びたしっぽみたいに、置き去りにされた手を、つなぐ。


肌を透かして伝わる、明良の体温。



それだけで

ひどくしあわせになれるあたしは、

この世でいちばん単純で、

矛盾に満ち満ちた生き物だった。



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