秘/恋
「明姫、寝てんのか?」
いまいちばん聞きたくなくて、本当は常時、年中無休で聞いていたい声が、ドアの向こうに響く。
「もう八時だぞ? 具合でも悪いのかよ?」
「放っておいて」
きんきんに尖った声が、ひしゃげた喉から漏れる。
「あっちに行っちゃって。構わないでよ」
……本当に『あっちに行っちゃっ』たら、意味もなく傷付くくせに。
あたしは、矛盾しまくっている。
傍にいちゃダメ。
でも――離れちゃダメ。
こんがらがる理由は、自分でわかっている。
「明姫、入るよ。いい加減遅刻」
「ッ入ってくんなバカッ」
「って入っちまったし。お邪魔しまーす」
「本当にお邪魔ッ! 退散してよ!」
どかどか不法侵入してきやがった明良に、あたしは思わず布団を跳ね上げた。
と、ふざけた口調とは裏腹。
明良の、しんと静まった瞳にぶつかった。
――部屋に入られたのは、失敗。
頭の芯が、一瞬で冷えた。