秘/恋
気づけば、周りのざわめきの質が、少しずつ変わっていた。
ちゃちい平屋の駅舎が、ちょん、とロータリーの隅に見えてくる。
「全部、無駄だった。
俺は、変わらない。変われない」
ちょっとずつ、足が鈍る。
歩いていったって、答えなんかない。
「明姫は?」
「あたし?」
「そう、あの金髪ひよこアタマと付き合って、なにか変わった?」
「……あたし、は……」
「なんにも変わらない。変われない。そうだろ?」
答えを求めたくせに答えを待たず、明良が覆い被せるように云う。
ざっと、あたしの思考にシャッター。
考えはまとまらずに、ビーズみたいに弾けて飛んだ。
「離れたら、楽になるって思う」
「……だから、また試すの?」
――また駄目かもって、半分、諦めながら。
「遠い場所にひとりで、行こうとするの?」
想像するだけで、身体を無理矢理引きちぎられるように、辛い。
自分が、半分になる。
明良の瞳が、細められる。
辛いものを飲み下すみたいに、歪んだ顔。
あたしもきっと、おなじ顔をしている。
つないだ手は、放せない。