秘/恋
「海、ね。泳げないだろ、明姫は」
「泳げるかどうかなんか関係ない。
海か山かのニ択なら、海なの、絶対」
「なんだそれ」
「法則」
くつくつと押し殺した声で、明良が笑う。
ぱたん、と傾けたあたしの頭は明良の肩にぶつかり、そのまましんなり馴染んでしまう。
頬に当たる制服がちくちくするけど、ここが最上の場所。
考えなくてわかる。
本能だから。
「温泉と、海、しかこの路線、知らないんだよな。どこがいい?」
「あんたの知らないもの、あたしが知るはずないでしょ」
「確かに」
お互いささやき声で、ぽつぽつしゃべる。
その声が潮の満ち引きみたいで、あたしは眠くなってしまった。
「眠い。目的地に着いたら、起こしてね」
宣言して、目をつぶる。
「だからそれはどこだよ?」
明良の、怒ったような、でもこらえきれず笑っちゃったみたいな言葉が、最後の記憶。
あたしは、ゆっくり眠りに落ちていった。
眠れなかった夜を、取り戻すように。